「キャリアアップ助成金」とは、雇用維持や人材確保などに活用できる助成金です。
現在、日本の雇用者の約1/3が「非正規雇用労働者」として働いています。
2005年には1,634万人だったのが、2022年には2,101万人と約1.3倍(総務省「労働力調査」2022年)に増えています。
不安定な立場にある「非正規雇用労働者」は、消費や結婚に前向きになれないことも多く、社会全体で考えるべき問題であると言われています。
そんな「非正規雇用労働者」の立場を安定させるために活用されているのが「キャリアアップ助成金」です。
事業者にとっては、雇用維持や人材確保などを考えるときに活用できる助成金の1つでもあります。
「キャリアアップ助成金」と言っても、コースが複数に分かれていて、それぞれの内容や助成額が異なります。事前に必要な手続き等などもご紹介するので、ぜひ参考にしてみてください。

目次
1. キャリアアップ助成金とは
2. 6つのコース
3. 受給要件
4. 支給額
5. 支給までの流れ
6. キャリアアップ計画書とは
7. 注意点
8.「電子申請」が可能に
9.「人材開発支援助成金」との違い
10. まとめ
|キャリアアップ助成金とは

キャリアアップ助成金とは、「非正規雇用労働者」の正社員化、人材育成、処遇改善などの取組に対して助成される制度です。
最近は人手不足でもあり、また、転職も当たり前になりつつある日本において、優秀な人材を育成、確保していくためも、こういう制度を利用していきたいところです。
また、雇用されている非正規労働者(契約社員、パートタイマ―、派遣社員など)にとっても、働きなれている企業でのキャリアアップを目指すためにも、活用してもらいたい制度でもあります。
|6つのコース

キャリアアップ助成金は、正社員化支援を目的とした「2つのコース」、処遇改善支援を目的とした「4つのコース」の合計6コースに分かれています。
●正社員化コース
非正規雇用労働者の正規雇用への転換または直接雇用へ
●障害者正社員化コース
障害のある非正規雇用労働者を正規雇用労働者等へ
●賃金規定等改定コース
非正規雇用労働者等の基本給の賃金規定等を改定し、3%以上増額
●賃金規定等共通化コース
非正規雇用労働者等と正規雇用労働者等との共通の賃金規定等を新たに規定・適用
●賞与・退職金制度導入コース
非正規雇用労働者等を対象に賞与・退職金制度を導入し、支給や積立てを実施
●社会保険適用時処遇改善コース
非正規雇用労働者等に新たに社会保険を適用し、労働者の収入を増加させる
|受給要件

申請には以下の要件を満たす必要があります。
■ 全コース共通の要件
・雇用保険適用事業所の事業主
・キャリアアップ管理者を置いている事業主
・対象労働者に対してキャリアアップ計画を作成し、労働局庁の認定を受けること
・対象労働者に対する労働条件、賃金の支払い状況等を明らかする書類を整備していること
・キャリアアップ計画期間内にキャリアアップに取り組んだ事業主であること
|支給額

申請するコースによって、内容と支給額が異なります。
■ 正社員化コース 12か月分(1人当たり)
就業規則等で、有期雇用労働者等を正社員化した場合に助成されます。
●2024年より支援が拡充しました。
- 有期雇用 → 正社員化 :80万円(大企業 60万円)に拡充
- 無期雇用 → 正社員化 :40万円(大企業 30万円)に拡充
●正規雇用が継続していた場合、2期目の支給申請ができるようになりました。
●加算額
措置内容 | 有期雇用労働者 | 無期雇用労働者 |
派遣労働者を派遣先で直接雇用する場合 | 28万5,000円 | |
母子家庭の母や父子家庭の父等の場合 | 95,000円 | 47,500円 |
人材開発支援助成金の訓練修了後に正社員化した場合 | 95,000円 ~11万円 | 47,500円 ~55,000円 |
正社員転換制度を新たに規定した場合 | 20万円(大企業15万円)※ | |
「勤務地限定・職務限定・短時間正社員」制度を 新たに規定した場合 | 40万円(大企業30万円)※ |
■ 障害者正社員化コース 12か月分(1人当たり)
障害者雇用の促進・職場定着のため、以下の取り組みに助成されます。
- 有期雇用 → 正規雇用 90万円(大企業 67.5万円)
- 有期雇用 → 無期雇用 45万円(大企業 33万円)
- 無期雇用 → 正規雇用 45万円(大企業 33万円)
※重度障害者の場合は、120万(90万円)、60万円(45万円)、60万円(45万円)
■ 賃金規定等改定コース 12か月分(1人当たり)
有期雇用労働者等の基本給を増額した場合に助成されます。
➀基本給増額 3%以上5%未満 : 5万円 (大企業 3.3万円)
➁基本給増額 5%以上 : 6.5万円(大企業 4.3万円)
※「職務評価」の活用により実施賃金規定等を改定した場合 +20万円(大企業 15万円)
(1事業所当たり1回のみ)
■ 賃金規定等共通化コース 12か月分
正規雇用労働者と共通の賃金規定を作成し、適用した場合に助成されます。
60万円 (大企業45万円)
1事業所当たり1回のみ)
■ 賞与・退職金制度導入コース 12か月分
有期雇用労働者等の「賞与・退職金制度」を新たに設け、支給や積立てをした場合に助成されます。
賞与か退職金を導入 : 40万円 (大企業30万円)
同時に導入 : +16.8万円(大企業12.6万円)
(1事業所当たり1回のみ)
■ 社会保険適用時処遇改善コース(1人当たり)
(1)手当等支給メニュー (手当支給・賃上げ・労働時間延長)
短時間労働者が、新たに社会保険の被保険者となった際、賃金総額を増加させる取り組みを行った場合
3年分 : 50万円(大企業37.5万円)
(2)労働時間延長メニュー
週の所定労働時間を4時間以上延長する等を実施し、社会保険の被保険者となった場合
30万円(大企業22.5万円)
|支給までの流れ

まず、厚生労働省のホームページ「雇用関係助成金支給要領」から書類をダウンロードし、書類を作成していきます。
①キャリアアップ計画の作成
②労働局・ハローワークへの提出・許可をもらう
③就業規則等の変更と周知
④正社員への転換や取り組みを行う → 6ヶ月間の賃金の支払い
⑤支給申請(給与支給日から2カ月以内)
⑥審査 → 4~5月後に支給

「キャリアアップ助成金のご案内(概要)」厚生労働省より
|「キャリアアップ計画」とは?

キャリアアップ計画とは、対象となる非正規雇用労働者のキャリアアップさせるための計画書のことです。
キャリアアップ計画は、各コースごとに異なる内容で作成する必要があります。
■ 事前に作成する
非正規雇用労働者等のキャリアアップを行うための大まかな道筋を、事前に作成します。
また、実施するコースに関する取り組みを記載していないと、助成金を受給できない場合があります。
キャリアアップ計画を作成したら、事前に労働局に相談すると安心です。
■ 管轄の労働局長に提出する
作成したキャリアアップ計画書は、実施するコースの取り組みを開始する前営業日までに、管轄の労働局長に提出する必要があります。
祭日や祝日で労働局が開いていない場合や、認定に時間がかかる場合があるため、余裕を持って、コース実施の1ヶ月前くらいには、労働局に提出するようにしましょう。
■ 内容は随時変更できる
事前に大まかに作成する計画なので、途中で内容が変わったら書き換えても問題ありません。
ただし、キャリアアップ計画を変更した際には、すみやかに「キャリアアップ計画変更届」を労働局に提出する必要があります。
キャリアアップ計画変更届を提出せずに、キャリアアップ計画を変更した場合、助成金を受給できない可能性があるので、十分に注意しましょう。
|注意点

キャリアアップ計画書を記入する際には、いくつかの注意点があります。記載ミスや不備があるまま提出しても、認定してもらえないことがあります。
■ キャリアアップ管理者を決める
事業主側でキャリアアップ計画を管理する「キャリアアップ管理者」を決めます。
※複数の事業所や労働者代表との兼任はできません。
■ 3~5年以内の計画を立てる
実施期間は「3年以上5年以内」の期間で作成します。
※5年後もキャリアアップ計画の取り組みを継続する場合は、新たにキャリアアップ計画書を労働局に提出します。
■ 全ての労働者の代表から意見を聞く
計画の対象となる非正規雇用労働者の意見が反映されるよう、全ての労働者の代表から意見を聴きます。
|「電子申請」が可能に

今まで、キャリアアップ助成金を申請するためには、窓口へ行く必要がありました。
しかし、現在は「キャリアアップ助成金」の多くのコースが電子申請可能となっています。
重複する入力項目が省けたり、入力内容も簡単になっているので、電子申請がおすすめです。
※デジタル庁が発行している「GビズID」の事前取得が必要
※「GビズID」の取得には時間がかかるので、早めに取得しておきましょう

参考:厚生労働省「雇用関係ポータル」
参考:「GビズIDサイト」
|「人材開発支援助成金」との違い

「キャリアアップ助成金」という名前のため、キャリアアップを助成する「人材開発支援助成金」と混同されることがありますが、対象者となる雇用形態が異なります。
・キャリアアップ助成金:非正規雇用労働者
・人材開発支援助成金:正規雇用労働者
両方の助成金を利用して、会社全体で労働者のキャリアアップを図る事業計画をすすめれば、効率的に生産性を高めることができ、事業の活性化につながるのではないでしょうか。
|まとめ

キャリアアップ助成金は、非正規雇用労働者等の能力向上を支援するだけでなく、事業主としても、競争力や企業価値の向上に繋がる可能性があります。
さらに、非正規雇用労働者等の待遇を改善することで、優秀な人材の確保も期待できます。
助成金は、きちんと要件を満たしていれば、経済産業省系の補助金のように、審査で落ちることが基本的にありません。
労働者が安心して働くことのできる環境整備のためにも、雇用に関する助成金を活用してみてはいかがでしょうか。
雇用環境の変化に合わせて、キャリアアップ助成金の内容も変更されています。
最新情報やご自身の状況を踏まえたご相談は、お近くの管轄労働局に問い合わせてみてください。
弊社でも、無料相談を受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
